気持ち悪さを売りにする気持ち悪さ

文藝春秋 2012年 09月号 [雑誌]

文藝春秋 2012年 09月号 [雑誌]

書名:冥土巡り(文藝春秋 2012年 09月号)
著者:鹿島田真希


■評価:不可
  物語:△ 情報:× 斬新さ:× 意外性:× 含意の深さ:× ムーブメント:× 構成:△ 日本語:○
  お勧め出来る人 :こんな人いるよね、というカタルシスを得たい人
  お勧めできない人:ドストエフスキーの『白痴』の設定とあらすじを知っている人、不快な人の話を聞かされたくない人


■所感
一言で言い表される作品は、他を寄せ付けないほどの佳作か或いはとんでもない駄作かのいずれかである。
残念ながら本作は前者ではない。
ドストエフスキーの『白痴』をモチーフにした、「不条理」劇。
本作を一言で表すならこの言葉が適切であろう。


選考委員の面子のせいか、最近の芥川賞は「直木賞の小ぶり版」のような作品が増えてきたように思う。
端的に言うと、どうしても純文学ではなく、大衆文学としてしか読めないものばかりなのである。
この境界を曖昧にしてしまったのが、村上春樹であり、村上龍であると個人的には思っているのだが(いや、彼らの作品をあたかも「大衆文学」のように評し、宣伝してきたマスコミのせいか)、彼ら自身はいわゆる「両刀使い」であり、かつての純文学作家の大家も「両刀使い」であったことから、悪いのは案外それがどちらに属しているのかを意識せずに消費してしまう我々読者の方かも知れない。


結局本作は純文学の皮を被った大衆小説に過ぎず、読んだ感想も「あるよねー」とか「いるよね−」といった平凡なもの以外を期待されても困るのではないか。


この作品を「深読み」して何かしら凄い価値を付与した選考委員の皆々様の「読解力」には脱帽させられる、という甚だ不遜な言葉で久しぶりの書評を締めくくろうと思う。


■読了日
2012/08/20