天才は凡人が解らない

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則

  • 作者: ジェイソン・フリード,デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン,黒沢 健二,松永 肇一,美谷 広海,祐佳 ヤング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/01/11
  • メディア: 単行本
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書名:小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則
著者: ジェイソン・フリード, デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン(訳:黒沢 健二, 松永 肇一, 美谷 広海, 祐佳 ヤング)


■評価:可
  情報:△ 新規性:△ 構成:△ 日本語:○ 実用性:△
  難易度:易 費用対効果:△ タイトルと内容の一致:△
  お勧め出来る人・用途 :プログラマをエイリアンだと思っている人・プログラマの生態を理解する
  お勧めできない人・用途:何をしたら良いかが明確な人・最良の手続きを模索する


■所感
 ここに書かれていることは、プログラマなら誰しもが思い描いている夢物語である。
 プログラマなら誰しも一度は考えたであろう「理想の」職場が実にリアルに表現されている。
 だが、残念なことに、そのような職場に巡り会えるのは、あるいはそのような職場を作り出せてしまえるのは、やはりほんの一握りの人だけなのである。


 本書の著者は弱者に厳しい。
 曰く、「時間がない」「資源がない」は言い訳でしかない。
 しかり。
 彼らとてそれがただの言い訳でしかないことは百も承知だ。
 だから?
 彼らのそのちっぽけな自尊心をたたき壊したところで残るものは何もない。


 このような類いの自己啓発本に行き当たるときに必ず考えてしまうことがある。

天才は凡人を理解できない

 天才にとって「凡人」の行為は甚だおかしくみえるのだろう。
 何故彼らは「無駄」なことを必死になってやろうとするのか。
 何故彼らは「無益」なものを懸命に守ろうとしているのか。
 それは彼らが「凡人」であるが故にそうしているのである。
 好きこのんでそういう生き方をしているわけではない。
 そう生きざるをえないからそういう生き方をしているのである。
 それが彼らの抱える「現実」である。


 著者はこう反論するだろう。
 「私は何も難しいことを言っているわけではない。私とて『天才』ではない。私は何も特別なことをしたわけではない。単に自ら課した原理・原則に従って行動しただけだ。勿論、ちょっとだけ機転を利かせた部分はあるけどね。」
 確かに。
 本人にとってはそうだろう。
 だが、このあり方を「必死に」学んで実行してみたところで、果たして何人の人がそれを成し遂げられるか?
 「確かに私は成功するための『原則』を提示した。だが、成功するかどうかは本人次第。私に責任を求めるのは間違っている。」
 しかり。


 この類いの議論は実に不毛だ。
 何もない、まっさらな環境から始めるのならば、そのまま、書かれたままを実践してみても良いだろう。
 だが、大半の人は既に「負の」ラインからのスタートとなる。
 本書で述べられていない(あるいは敢えて「軽視」している)制約条件も数多く存在する。
 だから、このような啓蒙に対する最も賢い応対は、「今の状況の中で無理なく実行出来る『改善点』を試験的に取り入れてみる」ことである。
 結局、「成功の方程式」は自分で導き出さなければならない。


 本書は非プログラマの(特に人事・経営関係の)人に特に読んでもらいたい1冊である。
 本書にはプログラマの「夢」が詰まっている。
 本書を読むことで、プログラマが「働きやすい」と考えている仕事環境について、ひいてはプログラマの考え方・生態について、かなり理解することが出来るだろう。