持たざる者は奪う者となる

悪人(上) (朝日文庫)

悪人(上) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)

書名:悪人(上)(下) (朝日文庫)
著者:吉田修一


■評価:可
  物語:△ 情報:− 斬新さ:× 意外性:△ 含意の深さ:△ ムーブメント:△ 構成:○ 日本語:○
  お勧め出来る人 :自分は誰にも迷惑をかけずに生きていると思っている人
  お勧めできない人:太宰治の『人間失格』を読んだことがある人


■所感
 どこかで見たことのあるテーマだなと思ったら、何のことはない、『人間失格』だった。
 よく言えば換骨奪胎、ストレートに表現すると「出来の悪い焼き直し」。


 帯の宣伝文句からだいぶ期待をしたのだが、完全な期待はずれ。

愛する者のために人は何度でも立ち上がる

 ドコニソンナバメンガアリマシタカ?


 登場人物にしても、そんな人間はいないだろうという「どこからどう見ても救いようのない、
完全無欠な『悪人』」、「これはどう考えても読者におもねっているとしか思えない、(読者にとって)情状酌量の要素がありありと示されている『悪人』(主人公!)」というように人間の複雑さ・心の奥深さがない薄っぺらい人間ばかり描かれている。

 
 肝心の物語も読者をまったく裏切ることなく、非常にパターン通りの進み方をする。
 結末まで含めて、まるで意外性がない。
 (個人的には品がない表現が多いこともマイナス評価)

 
 唯一評価できる点があるとすれば、「人の心を踏みにじることがいかに『罪』であるか」を読者に感じさせるような内容となっていること。


 本書で問われているテーマは有名な太宰治の『人間失格』が打ち出しているので(或いはアンドレ・ジイドの『背徳者』)、費用対効果も含めて、そちらを読む方をお勧めする。 


■読了日
2010/10/21