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アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ (光文社新書)
- 作者: 岡嶋裕史
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/03/18
- メディア: 新書
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著者:岡嶋裕史
■評価:良
情報:○ 新規性:○ 構成:△ 日本語:○ 実用性:○
難易度:やや難 費用対効果:○ タイトルと内容の一致:○
お勧め出来る人・用途 :「クラウド」の本質と自社がとるべき経営戦略についてヒントを得たい人・現在起きている現象を整理して理解する
お勧めできない人・用途:「クラウド」を何らかのビジネスチャンスにしようとしたいと思う人・「クラウド」で儲けるヒントを得る
■所感
岡嶋さんの新書は、やや叙情的過ぎるきらいがあるので、三歩ぐらいひいて読まなければならない(失礼!)と感じていたが、この書籍に関しては、「クラウド」を巡って現在何が発生しているかを冷静かつ客観的(そして岡嶋さんの著作にしてはやや「抑え気味」)に著している良書であると言える。
何よりも以下の3つの指摘が秀逸である。
- 「クラウド」的なサービスは、実は新しいものではない(既存の物流システムも不特定多数の生産者から供給されるという意味で「クラウド」的であると言える)
- Googleは「クラウド」を始めから「当たり前のもの」(業界用語で言うと「デフォルト」)として捉えており、むしろ自分たちのデファクト・スタンダードを維持するために「クラウド」に対して敢えて冷ややかな態度をとっている
- 「クラウド」に必要以上にこだわる必要はない。現にAppleは「クラウド」的な方向に進みつつ、それと逆行する様なビジネス戦略も敢えて行っている。要は自社にとってそれが「強み」となるかどうかである。ビジネスの現場に於いて「純粋であること」「原理主義的」であることには何の意味もない(Googleは本当に特殊な企業なので安易に真似すべきではない)。
多くの企業(特にこれからますます淘汰が激化する中小IT企業)にとって必要なのは、まさに上記のような視点である。
即ち、「クラウド」について正しく理解すること、自社の「強み」を生かすためにクラウドを「活用」する道(それは時には「クラウド」を切り捨てる道)を模索することである。
本書では、グーグルとマイクロソフト(ここ数年の内にこのように立場が完全に逆転してしまった)の市場におけるアプローチの差異が非常に解りやすく説明されている。
この辺りは岡嶋さんの本領発揮というところだろう。
だが、アップルとアマゾンに対する分析に関してはやや歯切れの悪さが目立つ。
この2社をグーグル、マイクロソフト戦線に加えたときにそれぞれがどのような立ち位置で戦況がどうなっているのか、頭に構図を描きにくいのである。
確かにこれは一筋縄ではいかない、難度の高い整理・分析ではあるが、だからこそ岡嶋さんのような方に期待したかったところである。
アップルとマイクロソフトとの共存はあり得ないにしても、アップル×グーグル、アマゾン×グーグル、(あまり想像はできないが)アマゾン×マイクロソフトといったWinWinは大いにあり得る話である(現にアップルやアマゾンの利用者はグーグルを利用しているだろう)。
その辺りの可能性を含めて、最後の方でしっかりと整理して欲しかった。
アップルやアマゾンは強力な「課金システム」を持っていて、アップルは完全な「囲い込み」を狙っている、アマゾンはアップルをそれなりに利用しようとしている(Kindle for iPhone)というところまでは解ったのだが、では、これにグーグルとマイクロソフトがどう絡んでいくか、というところが見えづらい。
この辺りが岡嶋さんの本を読んでいつも「ああ残念だなぁ」と思ってしまうところである。
しかし、岡嶋さんの著書の中では(失礼!)十分読む価値のある書である。
純粋にこの市場に興味のある人、或いは実際にビジネスの場でこの市場について分析・考察・判断しなければならない人にとって、本書は一読の価値ありである。
■読了日
2010/10/26