もう目の前にある現実

この国を出よ

この国を出よ

書名:この国を出よ
著者: 大前研一, 柳井正


■評価:良
  情報:◎ 新規性:△ 構成:△ 日本語:○ 実用性:△
  難易度:易 費用対効果:△ タイトルと内容の一致:○
  お勧め出来る人・用途 :自分が定年になるまではどうにか日本という国の中で完結していてもやっていけるのではないかと思っている人・グローバル化の現状にショックを受けて考えを改める
  お勧めできない人・用途:海外に出ることが必須であることを既に理解し行動している人・ファーストリテイリンググローバル化に対する対応などからグローバル経済における企業戦略についてヒントを得る


■所感
 解っている人には無用の書。
 解っていない人には一刻も早く読んでもらいたい本。
 特に政治家と教育関係者(文科省の官僚も含む)に読んでもらいたい。
 (財務省金融庁の連中は間違いなく正確な事態を把握しているはずである)


 本書でなされている警告は特に耳新しいものではない。

  • 日本人の内向き志向が強まっている
  • 日本人の英語力は(特に周辺アジア諸国と比べて)目も当てられないほど悲惨な状態である
  • 日本の教育は未だに「答え」がある問題しか考えられない人間を量産している
  • これからますますグローバル化が進み、世界に出て行かない(行けない)人(法人)は軒並み淘汰されてしまう
  • 日本の国家財政は破綻しており、今すぐにプライマリバランスを取り戻さないとデフォルトに陥る
  • それにも拘わらず政治家はばらまき政治を続けている

などなど。
 全てどこかでは聞いているような警告である。


 ただ、それらの警告は「ああ、いずれそうなるよな、なんとかしなきゃな」と思いつつも、「未だ先のことだろう」「まあいざというときには何とかなるだろう」「自分は何もしなくても大丈夫だろう」と自分(たち)に言い聞かすことで、聞いた耳の反対側からすり抜けていたはずである。
 しかし、事態は差し迫っており、「それ」はまさにこれからすぐに起こることなのだ、ということが本書を読むことで強く意識させられることになる。
 世界のどの国(の人々)もが強い危機意識を持ち、迅速な対応に出ている中で唯一この国だけがのんきに構えている。
 このままでは本当にこの国は「なくなってしまう」かも知れない。
 本書を読む意義は、

  1. 今世界で起きていること、その現状を正しく理解すること
  2. 強い危機意識を持ち、自らをこの危機に対して立ち向かうようドライブさせること

 にある。


そのうち、かつては船橋さん自身がその主張を全面に押し出すことをためらっていた(タイトルにそれがにじみ出ている)、「英語公用語論」が現実のものとなるかもしれない(本書を読めば、それが今からでも遅いくらいだ、という危機意識を持つ)。 

あえて英語公用語論 (文春新書)

あえて英語公用語論 (文春新書)

船橋洋一『あえて英語公用語論』 (文春新書)


本書は基本的に啓蒙の書ではあるが、最後の章は大前さんの「提言」となっている。
要点は以下の2つ、

  1. 法人税所得税」をゼロにしてこの国を「タックス・ヘイブン」とし、優秀な企業・人材を集める
  2. 税は全て付加価値税(いわゆる「消費税」)とし、税率を20%以上に上げる

となる。
しかし、これは斬新な意見ではあるが、説明不足で唐突すぎの感が否めず、少々乱暴な提言(平たく言うと「言いっ放し」)になってしまっている。
その点は残念である。


この問題に関しては、本書の2人と問題意識を同じくする、竹中さんと榊原さんの近著『絶対こうなる!日本経済』と併せて読むと、より理解が深まるだろう。

こちらの方は、本書の危機意識を出発点として、「ではこの国を滅ぼさないためにはどうすればよいか」の議論が交わされている。
順番としては本書の後にこの本を読むと、良いと思われる。
(「教育」に関する具体的な提案もあるため)