意外にペンギンの方だったりして

書名:電子マネー戦争Suica一人勝ちの秘密―魔法のカードの開発秘話と成功の軌跡
作者:岩田昭男


■評価:良
  情報:○ 新規性:○ 構成:△ 日本語:△ 実用性:○
  難易度:易 費用対効果:△ タイトルと内容の一致:×
  お勧め出来る人・用途 :電子マネーについての知識がない人・Suica誕生の舞台裏について知る
  お勧めできない人・用途:経営戦略に興味関心がある人・Suicaが成功した要因を分析して参考にする


■所感
 結論からいうと、本書には「一人勝ちの秘密」はどこにも書いていない。
 単に「Suica誕生の経緯」があまりこなれていない文章で綴られているだけである。
 知らなかった人にとってはそれなりに有益な情報であるが(従って実用性も含めて総合評価としては「良」をつけた)、知っている人にとっては真新しい発見はまったくないと言って良いだろう。


 何がいけないかといえば、「比較」がまったくなされていないことだ。
 「一人勝ち」というからには競争相手がいたはずであり、その競争相手に対してどのような「戦略」をとったから「勝てた」のかが解らなければ、タイトルの内容を満たしているとはとうてい言えない。
 本書には残念ながらこの点が完全に欠落している。


 ただ、最初にも述べたように、全く読む価値のない書であるかと言えばそうでもない。
 事実上「一人勝ち」の状態になっている"Suica"がどのように計画され、製造され、そして導入されたか、その一連の経緯を知るだけでもかなりの勉強になる。
 成功例としては珍しく、「参考になる」例の1つであることは間違いない。
 (これに匹敵する成功例としては例えば『R25』が挙げられる)


 本書には、クレジットカードを運営するにあたっての情報が、ある程度まとまったボリュームで記載されている。
 そのため、(これは恐らく著者があまり意図したものではないと思うが)本書は、クレジットカードの運用または導入に際しての参考資料とすることが可能である。
 

 どちらかというとおまけの方が意外に魅力的だった、類の書になってしまっているが、一読の価値はある。
 「プロジェクトX」でも意識されたのか、やや頁を繰る気力を削ぐような文章が続くのが難点ではあるが、読んで損はしない本である。


■読了日
2010/11/09